訪問看護ステーション桂 管理者 日比野 裕文
数年前、この時期、訪問先の庭で『紅梅』の何とも言えない香りが漂う利用者の自宅がありました。
玄関での挨拶に無言で仏間に座る男性は、毎回、座布団を準備し訪問看護の時間を待っている方でした。時々、母親が訪問看護の挨拶に対応して下さり、看護師へ庭の花を説明されました。
ある日、「おはようございます。訪問看護 桂です。」の挨拶に母親が対応された時、「いい香りですね。梅の香りも赤い色も艶やかですね。」と言うと、直ぐ様「何言っとる。紅梅だわ。」と教えて頂きました。
ここの訪問先、雨の日は、玄関中(土間)が、半分ほど水が流れ込んでいる状況を幾度か目にしました。私が、病棟から訪問看護ステーション桂へ移動前、自宅へ近くの川が氾濫し、堤防(愛知県の桜スポット全長約28kmのうち15kmほどの距離を4,000本もの桜が埋め尽くす)下の住居であったため、仏間の経机の脚半分まで水が流れ込み、座敷机の上で、親子が朝まで待ったと、当時の床上浸水後の話を母親から伺いました。
この水害以降、訪問看護先の利用者や家族の皆さんは、幸い災害被害を受けていません。
桂では、一昨年から、9月1日「防災の日」(関東大震災由来)前後、訪問先での避難所
・避難経路・持出物品・連絡先等の確認を行政の出す『防災マップ』を基に確認をしています。加え、24時間の緊急連絡先の確認、停電・断水時の対応を尋ねますが「連絡先、わからない。」「夜中は、保健所や包括支援センターへ電話で相談する。」「電力会社や水道組合に来てもらう。」の声が多く聞かれました。
2021年の介護報酬改定において、2024年4月から介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)の策定が義務化されました。自然災害や感染症が発生した場合でも、訪問看護の事業を安定的かつ継続的に提供するための計画を立てることが求められています。
昨年、秋の『令和4年度 犬山市介護保険指定事業所講習会(集団指導)』の中で、『業務継続計画(BCP)』災害発生時の利用者への対応の計画を早々進めるよう指導がありました。また、尾北医師会 地域ケア協力センター「BCP作成のポイント(研修DV)」を参考に、建設的な対応作成にあたっています。
利用者のトリアージにあたり、単身者(2/15現在 21/71名登録30%) と8050問題(6%)を抱える家庭に重点をあて、また、3日間自宅で持ちこたえることができそうな利用者には訪問しない(BCP作成にあたってのポイントから)等検討を重ねていきます。『岩倉市の防災を知ろう』に上げられていた個別支援計画書の計画を2023.05.31(水)までの作成終了を予定としています。
はじめに 訪問看護を提供する機関は、小規模事業体が大半、例えば、5人のスタッフでの運営、1人がCOVID‐19に感染、3人が濃厚接触者、訪問看護の継続は?他事業所から支援を派遣可能か?代替訪問を依頼できるか?支援依頼の際の連絡方法は、具体的ケア内容の手順申し送りは、契約は?逆に、他事業所でクラスター発生時、応援依頼の時の対応は?これから1年、関係機関との連携を一事業所の問題でなく「地域BCP」への取り組みが言うまでもなく不可欠です。『災害は社会の弱点をあぶりだす。平時できないことを有事に行うことは難しい。最大の災害対策は、平時からの住民・行政・地域の医療・介護・福祉をはじめとする各種資源との連携と協働により、災害弱者を想定し、彼らを守っていくことであり、実はこれは地域包括ケアシステム・地域共生社会構築のプロセスに合致する。(BCP策定の手引き 訪問看護編(2021年度 厚生労働科学特別研究班):岸暁美、今井博之、西原洋浩. 治療. 2019)』
病棟勤務であった時、日本精神科看護協会 愛知県支部研修で震災を受けた神戸市内の精神科病院にて震災時の体験の話を当時、夜勤をしていた看護師の方から身に極まる思いで話を聞いた記憶が蘇りました。
病院に隣接する住宅地からの出火、淡水や停電で最も困ったことは、トイレの洋式が溢れたとによる対応に苦労した。日勤者が、出勤時間になっても来ない。苛立ちや怒りが先に立ち、底知れぬ絶望を感じたとのことでした。
交通手段の遮断や自宅倒壊、そして身内の死等スタッフの身の回りで起きている状況が知る由もない状況であったのは言うまでもありません。神戸での研修後、地域での防災活動の中で、周辺地域に田畑があることは、避難所の簡易トイレの処理に大変役立つ講演がありました。
皆さんは、停電・断水の時、トイレ利用をどう対応しますか。
(白帝ニュース 令和5年3月)