翻訳する

内科部長 山田 貴章

今回は、相手と理解し合えるよう努力をしましょうというお話です。
我が家では、ときどき翻訳のことが話題になります。15年ほど前のある日、岩波書店からケストナーの「飛ぶ教室」の新訳がでました。「飛ぶ教室」は、ドイツの学校(ギムナジウム)を舞台にした1933年発表の児童文学で、我が家では高橋健二さんの訳で読まれています。すでに優れた訳があるならわざわざ訳しなおす必要はないと思うかもしれません。しかし、現代を生きる若い世代に作者のメッセージがきちんと伝わるよう、社会や文化に合わせて訳しなおすことはとても大事なのです。

この「飛ぶ教室」には、「美少年テオドール(der schöne Theodor)」という印象深い呼び名の上級生が出てきます。新しい本では彼の名称がどのように訳されるのか、我が家ではとても関心が集まりました。結局、池田香代子さんの新しい訳は、「かっこつけテーオドール」というものでした。ずいぶん違った呼び方になってしまいましたが、話の内容から考えた結果なのだと思います。横暴な先輩で、主人公たちには好かれていません。嫌いな先輩につけられたあだ名なので、このように訳したのでしょう。かなり苦労されたのだと思います。「飛ぶ教室」は、他にも何種類か訳がでています。興味のある方は読み比べてみてください。ちなみに、我が家の奥さまの考えた訳は「イケメン・テオドール」でした。この訳、僕はけっこう気に入っています。

以前、人工知能の分厚い教科書を分担して翻訳する作業に参加したことがあります。他の方が担当した部分で "neck stiffness" (項部硬直)という医学用語がでてきました。直訳すると「首が硬いこと」となりますが、担当された先生は、これを「肩こり」と訳してしまわれたのです。医療関係の本ではないので難しい医学用語を避けたいということでした。しかし、「Aという条件からBという結論が導かれる」という「推論」の例題の中で、緊急性の高い条件のひとつとして "neck stiffness" がとりあげられていたので、そのままでは著者の意図が伝わらなくなってしまいます。端折ってしまうと、「『肩こり』があったら髄膜炎とかクモ膜下出血だよ」というありえない話になってしまうのです。ずいぶん反対したのですが、結局、押し切られてしまい、とても残念でした。
翻訳するためには、内容をよく読みとって理解し、著者の伝えたいことが読者に伝わるように工夫することが必要になります。でも、これは翻訳に限った話ではなく、社会の中で様々な人たちと生活していく上で大切なことだと思っています。相手の話に耳を傾け、よく考えて、言いたいことを理解しようとすること。言葉を選び、こちらの伝えたいことが相手に理解してもらえるよう配慮すること。どちらの努力も忘れないようにしたいと思います。

(白帝ニュース 令和3年9月)


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