歴史から学ぶもの

精神科医 金 鳳虎

自粛生活も長引いて一年半にもなる。そんな中、3年前に放送されたNHKスペシャル「戦慄の記録 インパール」という特集を見た。太平洋戦争末期、不利になっている戦況を打開するため、日本軍はインド北東部の町インパールを目指して470㎞を行軍するという「インパール作戦(1944年3月8日~)」を決行した。太平洋戦争で最も無謀な作戦と言われ、およそ3万人が命を落とした。世界一の豪雨地帯で、雨期を避けるために三週間の短期決戦を計画したが、数カ月に及んだ。イギリス軍の猛攻を受け、誰一人インパールに到達することさえできなかった。極めて曖昧な意思決定の下に進められた計画。冷静な分析よりも組織内の人間関係が優先された。

イギリスで発見されたインパール作戦に関する機密資料から上層部は自らを正当化していたことが分かった。戦場の現実を無視して、作戦を強行した陸軍の上層部は戦後もその責任に向き合おうとしていなかった。牟田口廉也中将は「戦場の潮目を変える最も有効な計画だという強い信念は私にはあった」。ビルマ方面軍、中永太郎参謀長は「インパール作戦はいかなる犠牲を払っても精神的価値として続ける意義があった」などと話していた。
牟田口中将は作戦に前のめりになった。小畑参謀長は兵站の観点から作戦は実施すべきではないと牟田口司令官に進言した。しかし、牟田口司令官から消極的だと叱責され就任一カ月で更迭された。部下千人の死傷者を出した第33師団の師団長柳田元三中将らから「インパールを予定通り3週間で攻略するのは不可能」と牟田口司令官に作戦の変更を強く進言した。他の師団からも作戦の変更を求める訴えが相次いだが、変わることはなかった。作戦開始から2か月後、牟田口司令官は苦戦の原因は現場の指揮官にあるとして、三人の師団長を次々と更迭した。
牟田口司令官に仕えた斎藤博圀少尉による以下の記録文が信じられなかった。
牟田口司令官が作戦参謀に「どの位の損害が出るか?」と質問があり、「ハイ5000人殺せばとれると思います。」と返事。最初は敵を5000人殺すのかと思った。それは味方の師団で5000人の損害が出るということだった。」まるで虫けらでも殺すみたいに隷下部隊の損害を表現する」。

イギリス軍の戦力は太平洋戦争の初戦でビルマから敗走した時から一変していた。
短期決戦を期した日本軍に対し、イギリス軍は航空機による補給で持久戦に持ち込む作戦を周到に立てていた。戦況が悪化する中で、牟田口司令官は新聞社の記者に、戦況の良い話ばかりを伝えさせた。
特集は以下のように続いた。
「日本軍の大本営は戦場の現実を顧みることなく、一度決めた作戦の継続に固執していた。イギリスに残されていた東條英機大将の元秘書官の証言:現地で戦況を視察した大本営の参謀次長の秦彦三郎中将は「インパール作戦が成功する公算は極めて低い」と報告したが、東條大将は即座に彼の発言を制止し話題を変えた。秦中将は報告を半分ほどで終えた。この翌日東條大将は天皇への上奏で現実を覆い隠す。「現況においては辛うじて常続補給をなし得る情況、剛毅不屈、万策を尽くして既定方針の貫徹に努力することを必要と存じます」
大本営が作戦中止をようやく決定したのは作戦開始から4か月後の7月1日。しかし半年が経った12月になっても撤退は完了しなかった。戦死者の6割が作戦中止後に命を落とした…。

これほどの悲惨で無謀な作戦から何を感じるべきだろうか?
①現実を正しく知らない、現実を知っても立ち止まって考えない。
②一度決めたことはなかなか止めない。
③天皇陛下に現実を隠し、危機感を共有しない。
④国民へ不利な情報は知らせない。
⑤異論を唱える者は排除する。
⑥兵士の命よりも上層部の意思を優先。

現在、新型コロナウイルス感染症の感染が拡大する中、平和の祭典オリンピックが開催されている。平和の祭典である故インパール作戦とは共通する点は全くないと信じたい。また、事実がそれを証明してくれると信じたい。
コロナ禍において、大切なことは何か?日本が、人類が試されているのではないか?
オリンピック開催による日本国民の感染者が増えないこと、犠牲者が増えないことを信じて祈る。

(白帝ニュース 令和3年8月)


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