『鼓腹撃壌』

副院長 杉浦 琢

おなじみ大好きな故事成語のお話をさせていただきます。
『十八史略』からのものです。概略はこんなお話です。
天子尭(尭という名前です)の仁徳は天のようにすべてを覆うようであり、その知恵は神のように聡明であった。
彼に近づけばその心は太陽のように暖かく、彼を遠くから見ると恵みの雨を降らす雲のように偉大であった。彼は平陽を都とした。
宮殿の屋根はかやぶきで軒先は切りそろえず、宮殿に上がる階段は土で築いた三段だけであった。質素倹約しているということですね。
彼が天下を治めること五十年になるが、世の中が治まっているのか、治まっていないのか、万民が彼を天子であることを望んでいるのか、彼が天子であることを望んでいないのかがわからなかった。
側近にきいてもわからず、民間人にきいてもわからず、民間の識者にきいてみたがわからないので、そこで身なりをやつしてお忍びでにぎやかな大通りに出かけたところ、子どもたちの歌う童謡を聞くと、「私たち万民の生活を成り立たせているのは、あなた様のこの上ない徳のおかげでないものはありません。知らず知らずのうちに、天子の手本に従っています。」と。
しかしとある老人がおり、口に食べ物をほおばり、腹鼓を打ち、足踏みをして調子を取りながら歌いながら言うことには、「日が昇れば仕事をし、日が沈んだら休む。井戸を掘っては水を飲み、畑を耕しては食事をする。帝の力なぞどうして私に関わりがあろうか、いやない。」と。

こういうお話ですが、こんな老人の言葉を聞いたら、凡庸な天子ならがっかりしてしまうか怒ってしまいそうですが、そこは賢明な天子。そういう浅い解釈はしません。
これを聞いた尭は、「自分の政治は、国民に自分を意識させることなく、国民が豊かな生活を営むことを実現できている。」ことを知って、大変満足したとされています。
しかし、なんでおじいさんは腹鼓を打ち、足踏みをして踊っているのかが全然ぴんと来なかった記憶があります。

もうひとつ。この話で出てくる「階段」ですが、東洋の偉い人というのは大体少し高いところに座っているもので、天皇陛下の「陛」という漢字もそういう意味だそうです。お上が「上」から「下」にいろいろ命令するわけですね。
そういう意味で興味深いのが偉い人に対する呼び方です。「陛下」「猊下」「殿下」「机下」「侍史」などの呼び方があります。「閣下」と言えば「デーモン小暮閣下」ですが、やはり「閣下」と呼びかけるのが粋です。
諸説はありますが、これは「陛下」であれば、先ほど出てきた階段の下にいる伝奏者(連絡役、小姓、側用人)に向けて言っているわけです。
ですからなるべく直接は呼ばない、なるべく間接的に呼ぶというのが習わしなのです。名前を直接呼ぶのは不敬であるという考えもあります。ですから「天皇陛下」ではなく「陛下」がより正しい礼節を弁えた呼び方です。社長さんではなく社長のほうがきちんとしていますよね。「シャチョサン」はもっとだめです。

この前、いろいろな書類に患者さんにたいして「・・・殿」と書いてある書類がたくさんありました。どれもお役所が作成したものです。「・・・殿」というのは同僚などに辞令を出すときなどに使うものであって、今の考え方にはそぐわないものです。通常は「様」です。
しかし、「患者」の「者」という言葉はあまり丁寧な言葉でないことはみなさんお分かりだと思います。
ですから「患者様」という言葉も矛盾しています。
また「医者」というのも正しくないのですが、「医師」というのは「師」という言葉がついてとても威張っている感じがするので、医師は自分のことを「医者」ということが多いと思いますが、他人が医師のことを「医者」とは呼ばず「お医者さま」というようなおもしろい呼び方をします。だったらやはり「患者さま」は対になっているのでよいのでしょうか。
みなさん呼び方には苦慮されているのですが、その歴史や経緯などを踏まえたうえで使い分けるのは、結構おもしろいと思いますよ。
先日空港で「お医者様はいらっしゃいませんか。」と呼ばれました。行ってみると赤ちゃんを落としたという若いご夫婦が心配していました。丁度若い小児科の先生がおられたので、「先生、どうですか。」と聞いて、とても的確なアドバイスをされました。その先生がわたしに「これでいいですかね。」とおっしゃるので、「わたしもそれでいいと思います。」と答えました。私は何もしなかったのですがちゃっかり非売品のボールペンを頂きました。若い小児科の先生机下 ありがとうございました。

(白帝ニュース 令和3年4月)


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