経験すること

福祉施設 施設長 渡辺 久佳

「全国」という言葉はよく耳にしますが、この「全国」という言葉を耳にするたびに、中学1年の初めての社会の期末テストを思い出します。「〇〇の野菜の全国1位の生産地を答えなさい」との問題だったのですが、私はこの「全国」という意味が分からなかったのです。考えた挙句、全部の国=世界と理解し、国名を答えに書きました。その後、普通に生活をしているだけでも、世の中には「全国」という言葉が溢れていることに気が付きました。私の生活の中で新聞を読む、ニュースを見るという経験がなかったために起きた恥ずかしい思い出です。
学校を卒業して、犬山病院に入職した時に、故名誉院長先生から『夜と霧』を勧められ、買って読みました。本の帯には<評する言葉もないほどの感動><人間の偉大と悲惨を静かに描く>と書かれていました。ドイツ強制収容所の体験記録として読んでいる私にとっての感想は、「なんて世の中には悲惨なことがあるんだろう。むごい。信じられない。」でした。学校を卒業したばかりで、大した苦労もなく、好きな事だけして、のほほんと生活していた私は、本の帯にある感動、人間の偉大さに、気付くことなく、また、故名誉院長先生が勧めた理由を理解することなく、本を閉じていました。先日、先輩、友人との会話の中で著者フランクル氏の話題が出たのをきっかけに、もう一度、読んでみようと思い、『夜と霧』を読みました。犬山病院に入職し、病気、障害、複雑な環境、生活等々、色んな困難さを抱えながら生きている、生活している方々とお会いしてきました。もちろん精神科と強制収容所は全く違う事ですが、精神科に携わった仕事、経験をしてきたことで、今回、読み終えた時には人間の偉大さを知り、生きる事、生活することへの希望が見えたような気持ちとなりました。30数年前には、持つことができなかったこの感想は、私が経験してきた賜物ではないかと思っています。
昨年、グループホーム希望が丘に精神科に30年以上入院していたAさんが入居されました。30年という月日はちょっとした浦島太郎さん状態です。Aさんは希望が丘への入居により、自分の事は自分で行う(当たり前のことですが)こととなり、たくさんの不安を抱えていたのではないかと思います。その一つに、スーパーでの買物があります。初日には、自分でレジを行う形態にびっくりしていました。そして予算内で買物をする事ができず、スタッフの助けを借りて予算内で買物を済ませました。2回目は、前回と同じ物を買えば予算内で買える、と同じ物を買いました。ある日は、カラムーチョの大袋を買いますが、隣にはセールの小袋のカラムーチョが売っていて、3袋で同じ位の値段でたくさん食べることができるけど、見た目の大きな袋に惑わされてしまいました。その後は、自分で買物をして(自分の欲しい物を買う)、最後にチェックをしてからレジに行くようになり、今では一人で買い物ができるようになりました。
何気ない普段の生活は、何となく生活をして努力をすることはありません。しかし、努力のない経験の積み重ねが知恵を増やし、できる事(生活する力)を増やしているんだと感じました。きっと、どんな経験も価値あるものですね。

(白帝ニュース 令和3年2月)


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