「モノアミン仮説」                     
  診療部長 日比野良弘

抗うつ薬開発の歴史は1950年代に結核の治療薬として開発されたiproniazidと抗ヒスタミン剤として開発されたイミプラミンに抗うつ作用があることが偶然発見されたことから始まりました。イミプラミンなどの三環系抗うつ薬には共通してモノアミントランスポーターを阻害し、シナプス間隙に放出されたモノアミン(ノルアドレナリン、セロトニン、ドーパミン)の前シナプスニューロンへの再取り込みを阻害することが明らかになりました。iproniazidはモノアミン分解酵素(MAO)を阻害し、再取り込みされたモノアミンの分解を抑制します。これらのことからシナプス間隙におけるモノアミン濃度の上昇によって抗うつ作用が発揮されるという「モノアミン仮説」が1960年代に提唱されるようになりました。モノアミンの中でもとりわけセロトニンとノルアドレナリンの関与が指摘されました。その後このモノアミン仮説に基づいて三環系抗うつ薬に比べ抗コリン作用、抗アドレナリン作用、抗ヒスタミン作用が弱くその結果、口渇、便秘、起立性低血圧、眠気といった副作用の比較的少ない選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)が開発されました。
しかし抗うつ作用について従来のモノアミン仮説だけではいろいろ説明しにくいこともあり、例えば、シナプス間隙におけるモノアミン濃度の上昇が急性薬理作用として比較的短時間に起きるのにもかかわらず、実際の臨床場面においてうつ病の回復にはおよそ6週間かかるというタイムラグを十分説明することは出来ませんでした。またモノアミンの量を調節しない薬物でも抗うつ効果が認められる場合があります。そこで新たな推定作用機序として、後シナプスのモノアミン受容体のダウンレギュレーション(減少)が候補にあがりましたが(受容体仮説)、SSRIがダウンレギュレーションを起こさないことから一般的な機序とは見なされなくなりました。
モノアミン伝達に作用する薬物が抗うつ効果を持ち合わせていることは間違いないようですがその作用機序はまだはっきりしていません。うつ病の病態研究はモノアミン欠乏仮説、モノアミン受容体仮説を経て最近は「海馬」(大脳辺縁系の一部。PTSDやうつ病患者で萎縮が認められるとの報告がある)が注目され海馬の神経新生(ニューロジェネシス)をめぐってうつ病あるいは抗うつ薬の作用機序が論じられるようになっているようです。ただうつ病患者における海馬萎縮がよく言われていますが、これがうつ病の原因か、結果なのかはまだ不明です。
要約すれば、抗うつ薬の歴史は偶然発見された抗うつ効果が認められた二つの薬の研究から始まりました。ここからモノアミン仮説が提唱され新薬の開発が進みました。しかしモノアミン仮説だけではうつ病の病態機序が説明できないことも多く最近では「神経細胞損害仮説」が提唱されています。実際の臨床場面ではうつ病の改善には休息や服薬をしても一定の時間がかかることが多く、中には難治で安定するまでに長期戦を強いられたり再発を繰り返すケースも少なくありません。これらの事実は単にモノアミンの補充だけでは説明できないものです。うつ病では病像によってはやはりあせらずに回復の時を待つことも必要ではないかと考えます。
さて2020年のオリンピックが開催誘致合戦の結果東京に決まりました。前回の東京オリンピックは1964年に開催され私は小学校5年生でした。当時の日本は高度成長期であり雇用は確保され終身雇用が当たり前で、「今はまだ貧しいけどそのうち豊かになっていく」ことが実感できるような時代だったと思います。2013年の今、社会情勢は大きく変化しました。7年後の東京オリンピックの日私はどこで何をしているのでしょうか。できればその日を穏やかに迎えられたらと願います。

(白帝ニュース平成25年10月)


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