非定型うつ病

診療部長 日比野 良弘

毎年毎年精神科クリニックの数は増えていますが私の周りのクリニックの先生は、相変わらず忙しく、中には手一杯で初診は1ヶ月待ちのクリニックもあります。クリニックの数同様に最近増えている患者さんの主流はうつ病、およびうつ病周辺群と言われます。そのうつ病と診断されるなかで従来のうつ病とは異なる病像の「非定型うつ病」が、昨今マスコミでも取り上げられるようになり関心を引いています。
現在日本の精神科領域の診断名ではレセプトに記載する際に使用されることの多いドイツ流の従来のものや、公的書類等に使用されることの多い国際分類であるICD、研究発表の際用いられることの多いアメリカの診断基準のDSMが混在しています。「非定型うつ病」は、DSMの「大うつ病性障害、非定型の特徴を伴うもの」を指していますが、まだ一つの疾患名として確立したものではありません。ただしDSMでは、非定型という用語は歴史的にうつ病研究がメランコリー型(定型)の特徴をもつ入院患者で行われた事実の名残で、外来診察ではメランコリー型よりもはるかによくみられる、とされています。
メランコリー型うつ病は従来からうつ病と診断されてきたうつ病の典型で日本では執着気質と共通する几帳面、真面目で責任感の強い性格の人が頑張りすぎて発症するもので典型的な症状は、すべてに億劫で好きな事もできず元気がなく、気分は朝が特にすぐれず夕方になると少し楽になる日内変動が観察され、就眠困難や早朝覚醒の不眠傾向があり、食欲が落ち体重が減少します。一方「非定型の特徴を伴うもの」の病像は、普段は憂うつな気分だが自分の好きな事には元気がでるという気分の反応性が認められます。また過食傾向で体重が増加し、いくら寝ても寝足りないような過眠傾向や、体が鉛の様に重い感覚、対人関係の拒絶に過敏でしばしば他罰的であることが認められ、気分はむしろ夕方から夜に不安定となることも多いとされます。またしばしば合併するパーソナリティ障害の診断を持っていると記載されています。従来のうつ病は治療の基本は休養と抗うつ薬を主とする薬物治療で、多くは治療によく反応します。また患者さんに対しては励ますような言葉は本人を結果的に追いつめ症状を悪化させることが多いので用いないことが常識でした。一方「非定型うつ病」は休養や従来の三環系抗うつ薬に対する反応が乏しく、経過はしばしば長期化します。むしろ患者さんに対しては少し励ましたり、頑張らせたりしながら生活リズムを整え規則正しい生活を送ることが大切であるとされます。また対人関係の改善のための精神療法が求められます。
「非定型うつ病」の歴史は1958年にウエストとダリーが電気けいれん療法や三環系抗うつ病に比べMAO阻害剤が奏効するうつ病の一群の報告から始まりました。1969年クラインとデイビスはMAO阻害剤反応性の病像を「拒絶過敏性類ヒステリー性不機嫌症」と名付けました。しかしその後、非定型うつ病にMAO阻害剤が選択的に効果をしめす証拠は得られず、非定型うつ病は明確な臨床単位なのか否かをめぐり論争が続き決着がついていないのが現状の様です。実際日本においてもそう診断されうる患者さんは増えていますが「非定型うつ病」はまだ認知されていません。特に原因別分類を排除し症状別に分類するDSMの診断方法に疑問を持つ精神科医も多く「非定型うつ病」を病気としてのうつ病の非定型とすることに反対する精神科医は少なくありません。「非定型うつ病」は従来の診断で言えば、「抑うつ神経症」や「神経症性うつ病」にあたるもののように思えますが、神経症という概念を排除したDSMでは「非定型」とするしかないのかも知れません。
精神科領域の現状はうつ病、およびうつ病周辺群がバブル状態のようにも思えます。言い換えるとSSRIを中心とする抗うつ薬バブルかもしれません。精神病、精神障害とは何か、治療とは何か、治るとは何かを今一度考える必要があるように思います。

(白帝ニュース平成20年11月)


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