
<第20回> 精神科医長 杉浦 琢
みなさんこんにちは。今まで最も基本的な認知療法について説明してきました。
今回からは第三世代の(つまり新しい)認知療法のひとつである、『マインドフルネス認知療法』についてご紹介します。
今まで紹介してきた認知療法は、患者さんの「非合理的で役に立たない考え方や価値観」(「自動思考」)を思考記録表などによって検証し、「より合理的で適応性の高い考え方や価値観」(「適応思考」)を学ぶものでした。
そのことによって、ストレスを感じた時など「自動思考」に陥ってしまう際、素早くそれに気づき、意識的に「適応思考」に変換する、あるいは「適応思考」で対応する、という練習を繰り返します。
これにより、「適応思考」が新たな良い習慣となり、ストレスがかかっても受け流すことが容易にできるようになります。
これが今まで説明してきた従来の認知療法の基本姿勢です。いわば、「自動思考を適応思考にある程度明確な意図をもって変容させる」という仕組みです。
ところが、かなり認知療法の練習を積んで状態が良くなった患者さんでも、しばらくしてまたストレスがかかると「適応思考」に移ることができない、あるいは「適応思考」の考えに納得できなくなることがある、という事実が様々な研究で分かってきました。
つまり、再発を予防するにあたって従来の認知療法には弱点があることが、ここ最近の研究でわかってきたのです。
そこで修正法として開発されたのが「マインドフルネス認知療法(MBCT)」など第三世代の認知行動療法と呼ばれる治療法です。
従来の認知療法との違いは、「自動思考」が思い浮かんできた時にそれを意図的に「適応思考」で反論し打ち消そうとするのではなく、「自動思考」という考えやそれに伴ってわき上がってくる「不安、落ち込み、怒り」などの気分・感情を、自分自身と同一化せず、「また自分はこんな思考(自動思考)や、こんな感情(不安など)が出て来ているなあ」と、まるで他人事のように距離を置いて眺める(「脱中心化」)、という手法を取ることです。
否定的な感情・嫌な思考や記憶、それらに伴う身体症状(感覚)に対しても、ただちに否定や排除するのではなく、数分から数十分はその中にどっぷりと浸ります。
すると、一見逆説的なのですが、かえって楽になってくることに患者さんは気づきます。自分が「この状態から早く抜け出さなければいけない。」「こういう状態でなければならない。」「こんなことを感じている自分は間違っている。」という、自分自身で作った価値観に縛られて閉じ込められていたことが、実感として理解できるのです。
もちろんMBCTも、きちんとした指導のもと、最低8週間はプログラム通りに行なわないとなかなか身につきません。
なぜなら特に現代文化では「悪しきものはできるだけ早く排除すべき」という価値観が蔓延しており、「悪しきもの」に浸ることなどは当初心身がものすごく抵抗するからです。
しかしコツを習得すると、自己価値観や世界観が大きく変わることがわかってくるでしょう。
この「実感としてわかる」という感覚は、瞑想や催眠療法、自己催眠と共通の境地で、いわば心理的な視野が広がり、より自由度が増したように感じます。
そして何もストレスがなく不調ではないときも、毎日の「心のフィットネス」や気分転換、直観力を高めるといった、日々のパフォーマンスを高めることに大いに貢献します。
そのようなMBCTなどの第三世代の認知行動療法が開発された背景には、うつ病の高い再発率や薬物療法継続についての問題点、認知行動療法家が不足していることや、認知モデルそのものの問題点が挙げられます。
今後はその点について、MBCTを中心に第三世代の認知行動療法のご紹介も兼ねて説明していきたいと思います。
「マインドフルネスって何だろう。」「第三世代って他にどういう治療法があるのだろう。」など興味を持っていただければ幸いです。

出典:白帝ニュース(犬山病院院内報)
平成23年12月1日発行 No503

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