混合診療について
病院長 加藤
荘二
犬山病院創立40周年記念行事や医療監視も終わり、また日本医療機能評価機構の認定病院更新の条件であった8つの改善要望事項の解決の目途が立ち、一息ついたところでこの原稿を書いています。
まず11月末に院内から煙草の自動販売機を撤去したことを報告します。これは医療機能評価機構の認定病院継続には必須なことであり、同時に職員食堂の喫煙コーナーも廃止して、職員の館内喫煙を禁止しました。屋外の喫煙場所を増設する等、愛煙家の皆様には少しでも配慮したいとは思います。しかし機構の方針はさらに厳しく、次のバージョン5.0では閉鎖病棟以外は全館禁煙を求めていますので、将来的には開放病棟での喫煙は、開放の時間帯は屋外で、施錠時間帯は喫煙コーナーのみとしなければなりません。機構の禁煙方針は突出しているように思えますが、背後に厚労省の意向があるようで、いずれは全病院に適用されるはずですので、改めて職員の皆様には禁煙することをお勧めします。
さて今回は現在問題になっている混合診療について述べてみます。混合診療とは、保険診療(公的医療保険の適用となる診療)と自由診療(保険が適用されない診療)を同時に受け、保険診療分は一部負担、自由診療分は全額患者負担として、治療費を混合して支払う診療のことを言います。日本では現在この混合診療は認められておらず、そのため保険診療と自由診療を同時に受けた場合は、保険診療分も全額自己負担になります。例外として、高度先進医療や選定療養(差額ベッド等)については、医療サービスの基本的な部分は保険診療で賄い、それを超える部分は患者の同意を得て特別な料金を徴収できる「特定療養費制度」があります。
混合診療解禁のためによく例に出される2つのケースを紹介します。乳癌手術の場合、乳房切除は保険診療で、その後の乳房再建手術は自由診療ですが、2つの手術を併せて行うと全額自己負担となり、高額療養費も適用になりません。混合診療が解禁されれば、切除手術の分は保険適応となり自己負担は3割になることから、患者の負担はその分だけ軽減されることになります。もう1つは、癌の患者が摘出手術を受けた後、国内で未承認の抗がん剤の治療を受けた場合、癌治療にかかった費用全てが自己負担になってしまいますが、解禁されれば未承認の抗がん剤治療の分だけが自己負担になります。このことだけを見れば、誰もが混合診療の禁止は不合理で直ぐに解禁すべきと考えてしまうでしょう。
今回の解禁問題は、小泉首相自らが規制改革、民間開放推進会議に「年内に混合診療を解禁する方向で結論を出すように」と指示を出したことから始まり、それをバックに規制改革、民間開放推進会議が厚生労働省に強い態度で全面解禁を迫っています。厚労省は「混合診療の無条件の解禁には弊害があり一定のルールが不可欠」として特定療養費制度の拡充で対応しようとしています。一方医療関係者のほとんどは混合診療に反対しており、日本医師会、保険医協会、病院4団体、看護協会等医療関係35団体は「国民医療推進協議会」を発足させ、混合診療解禁反対の署名活動を展開しています。混合診療解禁の反対の理由として、(1)効果と安全性の保証がない(自由診療で、未確立で根拠のない治療が行われる可能性がある)、(2)新たな治療法が自己負担となる(最新で安全性も確立された医療が保険診療に採択されるのが遅れてしまう)、(3)お金のあるなしで医療に差がでる(自由診療はかなり高額な価格設定がされるはず)、等を挙げています。
意見は激しく対立していますが、先にあげた2つの例をよく考えてみましょう。まず乳癌手術後の再建手術については、美容形成の範囲ではありますが、「切って治ればよい」時代からその後の生活の質を重視する時代になり、多くの人が再建術を望むようになってきていることから保険診療に採択するのが適当と考えます。未承認の抗がん剤の例も、治験や薬剤の承認システムを改革して、安全で有用な薬剤が速やかに保険収載できるようにするのが本来の解決策のはずです。つまり混合診療解禁の代表例とされる2つの例はいずれも保険診療とすべきケースなのです。このことだけで、もうどちらが正しいのかわかると思います。混合診療が全面解禁されれば、公的医療の割合が次第に縮小して自由診療が拡大していくため、医療の混乱を招くだけではなく、自由診療に対する営利目的の民間保険の参入も激しくなり、やがて「国民皆保険制度」も崩壊するでしょう。
この問題について国民の間でもっと議論をすることも大切ですが、健康保険制度がもともとは富国強兵策の一環として生まれ、時代と伴にその役割も大きく変化してはいるものの、現在も単に医療だけでなく国の経済政策の根幹に関わる問題であることには変わりはないはずで、医療制度の荒廃は「国力」の低下を招くのは必至であることから、まず国の指導者達の見識を問うべきでしょう。普段は何かと厚労省を批判することの多い私ですが、この問題については厚労省の踏ん張りに期待しています。

(白帝ニュース平成16年12月)
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